記憶

 母が生まれたのは昭和16年。戦中生まれではあるが、終戦時3歳そこそこ、その上60年以上も前のことなのでほとんど記憶は残ってないだろうと思っていた。
 ところが先日、ふいに
「戦争中の記憶、ひとつだけあるんよ。忘れようと思っても忘れられない記憶が…」
と語り始めた。
 まさか母から戦争の話が聞けるとは思ってなかったので、いつになくまじめに耳を傾けることにした。


「お隣に住んでたお兄ちゃんの豆鉄砲を勝手に使って壊しちゃってね。見つかったら怒られると思ったから、家と家の隙間に隠したんよ。お兄ちゃんが『豆鉄砲がない、ない』って言って探してるの見ながら罪の意識にさいなまれてねえ。60年経っても時折思い出しては心が痛むよ」


 戦争関係なかった。