家族 

 弟は、いっとき2年間あまり仕事もバイトもしていない時期があった。


ニートってさ、『働いたら負け』とかって開き直ってるようなイメージあると思うけど、本人にしたらめちゃくちゃ怖いんよ。
一生このままなんじゃろうか。親が死んだら生きていけんくなるんじゃないかって。
それがわかってても働けんのがニートなんじゃけど、そのうえ世間から『無気力』とか『ダメ人間』呼ばわりされてたら、そりゃ余計世間に出て行く勇気がなくなるよ。
でも、父さんと母さんはそういう俺の心境を理解して信じてくれてたんかな。
俺が無職の間、一度も『就職しろ』とか『やる気あるんか』とか言わずに、辛抱強く普通に接してくれててね。
おかげでクサることなく何とか就職できて、今の自分があるんやと思うわ。そこんとこはちょっと感謝してる」


 俺は知っている。
 弟の就職が決まったとき、父と母が
「もうあいつメシ作ったり掃除したりしてくれんくなるんじゃろうのう」
「残念だけど、しょうがないでしょ。就職できてよかったやん」
と複雑な面持ちで話していたことを。