初めての外泊

初めて好きな女性の家に泊まったのは、大学生だった8年前の冬のことだった。


バイト先の2歳程年上のMさんという女性に惚れてしまい、
何度かデートする仲にまでこぎつけた頃、突然
「仕事終わったらウチに遊びに来ない?」
と言われたときには、飛び上がるほど嬉しかった。
いや実際、職場の更衣室で一人になった隙を見計らって飛び跳ねた。
あのとき店内装飾用のクリスマスツリーを棚の上から落として壊したのは俺です、店長ごめんなさい。


それでMさんが一人で住んでいるマンションの部屋に上がらせてもらい、
とにかく浮かれた気分でベラベラしゃべってるとき
Mさんの携帯に電話がかかってきた。
「あ、今からアニキがうち来るんだって。なんかふう君に会ってみたいって。」
は?お兄さんが何で俺に会いたいの?
うろたえて訳を聞く間もなくチャイムが鳴ってお兄さんが入ってくる。
とにかく挨拶だけでもちゃんとしないとと思い、
「はじめまして‥‥。」
と言い終わる間もなくお兄さんの後ろから3人の男女がぞろぞろと入室。
なぜか俺を中心に囲むように座る彼ら。
どうやらMさんのお兄さんが彼らのリーダーらしく、
「僕らのグループに入らない?
いやいや、そんな怪しい宗教みたいなのじゃなくて、
みんなで山とか海に遊びに行ったり、座禅組んだりするだけの集まりなんだけどね。」
座禅!?
「今幸せ?僕らの会に入ったら色々いいことが起こるんだよ。」
あんたらが来る前は幸せだと思ってたつーの。
「彼なんかこないだ外車買ったんだ。写真見る?」
見知らぬ男の外車の写真を無理やり見せられる俺。
「ね、みんないい人でしょ。」
満面の笑みで問いかけるMさん。本気だ。


どうやらその日はMさんのウチで合宿のようなものをする予定だったらしく、
強引に泊まらされて、異様な盛り上がりを見せるパーティを恐怖に震えながらも長い一夜を明かし、
次の日の朝、
「今日は用事があるんです!失礼します!」
と言って逃げるように部屋から出ていった。


「初めての外泊」で思い出したのがこの話。
同じテーマでどうして俺だけこんな罰ゲームみたいな話なんだ。