怖い先生

 高校時代、一番怖かった先生は、体罰体育教師でも、生活指導のサド教師でも、セクハラオンパレード変態数学教師でもなく、定年を過ぎて嘱託で物理を教えてくれてたS先生だった。
 総白髪でよろよろと歩き、もぞもぞと口の中でしゃべる、いかにもおじいちゃんという雰囲気の先生だった。そして、板書の途中で突然ピタッと動きが止まり、5秒ほど石像のように固まったかと思うと、また何事もなかったかのように続きを板書し始めるということが、50分の授業中に2、3回はあった。他の先生に聞くと、かなり心臓が弱っているらしい。
 普段はコソコソとおしゃべりしたり、グーグーと居眠りしてるような悪ガキ同級生たちも、S先生の授業中だけは「いつ死ぬかわからん」という恐怖と「ショックを与えたらヤバい」という緊張で、張り詰めたような静けさだった。S先生が「ピタッ」と止まる度に、生徒は「ビクッ」としたものだった。誰もが「せめて俺たちの授業中には死なないでくれ」という思いだった。
 幸い、俺たちが卒業するまでS先生の心臓が止まることはなかった。それどころか、あれから12年が経った今も、先生の仕事は辞められたものの、元気で畑仕事などしていらっしゃるそうだ。戦前生まれの丈夫さには驚かされる。
 いつまでもお元気で。