父が若いころ、うっかりカギをかけないまま社用車から離れたせいで、その車が盗まれるということがあったそうだ。
警察に届けはしたものの、「戻ってくる可能性はかなり低いですよ」と言われて、相当落ち込んでいたら、気をつかってくれたのか、社長が声をかけてきた。
「会社の近くに、けっこう立派な社を構えている拝み屋さんがいて、近所で評判なんだ。そこへ行って、車がどこにあるか探してもらいなさい」
と、お布施用のお金まで握らせてきた。
ばかばかしいとは思ったけど、社長の言うことなので断るわけにもいかず、その拝み屋を訪ねて事情を話すと、
「何もしなくていい。1か月ほど待ちなさい」
と言われただけだった。
言われたとおりに何もせず1か月ほどが経ったころ、警察から、盗まれた社用車が乗り捨てられて見つかったという連絡があった。
拝み屋は本物だったのかもなあと思いつつも、結局は何もしなかっただけだし、戻ってきた車はあちこちぶつけられてボロボロだったので、なんだか釈然としない思いだったんだって。