先輩の送別会用のスピーチ原稿

 入社し立ての頃、初めて夜中までかかって残業していたら、先輩が
「コンビニに飯買いに行こう。」
と言うので、一緒に部屋を出てエレベーターで1階まで下りると、突然
「俺のあとに同じようにして着いて来い。」
と、廊下の壁にぴたりと張り付いて忍者のようにすり足で歩き始めた。
「何してるんですか?」
「こうするとセキュリティに引っかからずに済むんよ。解除すんのめんどくさいし。」


 しぶしぶ同じようにして裏口まで後を着いて行き、
「よし、もう大丈夫。こうして行けばうまくいくけーの。覚えとけ。」
と自信満々に先輩がドアを開けようとすると、
 ジリリリリ!
と警報が鳴り始めた。
 びっくりして先輩の方を見ると、こちらを向いて
「なっ。」


 なっ。じゃねーよ。



 その先輩も今月末で退職。今でもあのときの情けない表情は忘れられません。お元気で。