昼休み、会社の近くの定食屋で席に座ってメニューを眺めていると、同じ会社で2年後輩のKさんが入ってきた。


―彼女にはかつて軽くトラウマを植え付けられた思い出がある。
Kさんが入社して1ヶ月ほど経った頃、たまたま帰る時間が一緒になったので、お好み焼きでも食べに行こうということになった。
俺より4つも年下だけど、とにかく明るくハキハキしてて、すぐに周りに好かれる人だったから、食べてるときも楽しかったんだけど、食べ終わってレジの前で俺が
「あ、ここ俺が払っとくよ。」
と先輩面吹かせて言ったその瞬間。
「ええっ!おごりだなんてとんでもないです!払います!」
めっちゃすごい勢いでおごるのを拒否されてしまった。
レジの人がニヤニヤおもしろそうに見ている手前、表面上は冷静さを保って「いいから、払うよ。」と強引に支払いを済ませたものの、内心泣きそうだったよ。
彼女にしてみれば、本当におごってもらうことに対して申し訳ないと思ってたのかも知れないけど、俺にしてみたら「下心があるように見えたんやろか。」とか「ひょっとして広島では〈おごる〉=〈口説いている〉ってことなんやろか。」とかかなり悩んだ挙げ句、その後しばらく女性をご飯に誘うということができなくなってしまったのだ。


そんなKさんが今日、定食屋で俺の席に座って楽しく食事し終わった後、
「おごりですか?悪いですねー。」
と先手を打ってほざきやがった。
トラウマ消滅。うれしいような悲しいような。